本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
■ おなじ墓のムジナ 枕倉北商店街殺人事件
May 25, 1994 5:51 AM
デビュー作である本作で、第14回横溝正史賞佳作受賞。
朝の6時から人だかりのする商店街。騒ぎの主は、なんと通りの入口に置かれた信楽焼のタヌキの置物だった。160センチはあるだろうか。一体誰が何のために?
その後、頼みもしないタヌキそばが10杯も書店に出前されたり、喫茶店の前に茶釜が置かれたりと、タヌキがらみの奇妙な事件が続発し、こんどは商店街の仲間のひとりが何者かに殺害された。第一発見者の失業中の30歳、唐岸 誠矢(からぎし せいや)は、嫌疑をはらすべく事件の真相を追求し始める。だがその直後、第二の殺人事件が起きる。忍者、数字の8をキーワードに、徳川時代、第二次世界大戦中の信楽へと読者を旅させながら、事件の真相へワナワナと導く。
随所にちりばめられたお笑い、食いしん坊の著者の好みが炸裂した、食の彩りが満載。登場人物たちがスローライフで頑固な職人が多いのは、舞台である JR中央線沿線ならでは。
居酒屋ミステリともいうべきシチュエーション、また、真相へとアプローチするのが板前による安楽椅子探偵と愉快な設定。
テーマは下町のエラリー・クイーン。タヌキにちなんで八つの条件を挙げて犯人を絞り込んで行くロジカルな消去法推理が圧巻である。
[出版] 平成6年5月25日 角川書店
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