本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
バカミスがバカミステリの略であることは今ではかなり幅広い読者層に知れ渡っていると思う。
念の為、断っておくが、あくまでもバカなミステリであって、馬鹿な人の書いたミステリを指すものでない。
では、どういうものをバカミスと呼ぶのか?
この問いに端的に答えるならば、小説の設定であれ、キャラクターであれ、ストーリー、トリック、語り口、いずれであれ、どれか一つでも「んな、バカな!」とつい叫びたくなるミステリ、ということになる。
だから、本格、ハードボイルド、サスペンス、スパイもの、謀略もの、いずれのジャンルにもバカミスは存在する。
そう、バカミスとはジャンルではないのだ。
それは、特撮映画が実際にはジャンルではないことと似ている。
いわゆるSFX(特殊撮影)が大きな見所となる作品群を総称して特撮映画と呼んでいるわけだが、本質的にジャンルに分類すれば、怪獣映画、戦争もの、SF、ホラー、ファンタジーにどに相当するわけだ。
つまり、特撮とはジャンルではなく「演出」である。
そのことはバカミスにも当てはまる。
バカミスとは演出。
効果としての「んな、バカな!」、そうした演出を積極的に用いたミステリをバカミスと呼ぶ。または、作者の意図を超えてそれが目立ってしまった作品も含む。懐の深さは底なし沼なのだ。
バカミスとはエンタメ小説界における特撮というわけである。
参考までに、ここで、私のバカミス・ベスト10(海外編)を挙げておこう。思いつくままに。(その日の気分によって異なるので絶対値ではない)
「くたばれ健康法」(A・グリーン)
「魔女が笑う夜(わらう後家)」(C・ディクスン)
「ウサギ料理は殺しの味」(P・シニアック)
「そして死の鐘が鳴る」(C・エアード)
「しなやかに歩く魔女」(C・ブラウン)
「モルグの女」(J・ラティマー)
「自宅にて急逝」(C・ブランド)
「ウースター家の掟」(P・G・ウッドハウス)
「病める巨犬たちの夜」(A・D・G)
「狂気準備集合罪」(T・シャープ)
今年は「バカミス」という呼称が産声をあげて、ちょうど干支一回りした。
1994年、ある朝、評論家・小山正氏が布団の中で起き抜けに、「バカミス」という言葉を思いついた。
同じ頃、私こと霞流一は「おなじ墓のムジナ」で作家デビューをする。よく、問われることだが、ペンネームの「かすみ」は「バカミス」のアナグラムですか?
いいえ、まったく関係ありません。
以上の事象はすべて偶然、軽いシンクロニシティ、ちょっとした「んな、バカな!」ことに過ぎないのだ。
(2006年11月29日/「ミステリの集い・国立リヴァプール」のチラシより)
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