本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
■ アカバネン・グラフィティ12
July 15, 2007 7:17 PM
「毒身」
俺らが住んでいた赤羽台団地には、親から「行っちゃ駄目だよ」って厳しく言われていた場所があった。
廃墟や盛り場といった、いかにも危なそうな場所ではない。
団地の一部。
およそ六十の棟がある団地内に、
一棟だけ、
独身者専用のものがあったのだ。
エレベーター付きの、七階建ての大きな建物である。
しかし、他の棟よりも廊下や階段が圧倒的に暗い。
照明が淡いのである。
加えて、入り口近辺を巡回する管理人さんがやけに厳しかった。
俺らは「ナヴァロンの要塞」みたいに潜入したものだ。
子供心にも、その暗さや厳しい警備は何やら異様に感じたものである。
それにしても、どうして、そんな状態だったのだろう?
当時(およそ四十年前)、公団住宅を担当する行政は、独身者の生態をとてつもなく淫靡に歪曲して捉えていたとしか考えられない。
すこぶる屈折したイメージを抱いていたに違いない。
現在、赤羽台団地は取り壊され、再建築が進行中である。
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