本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
■ アカバネン・グラフィティ13
July 15, 2007 8:03 PM
「サンジェルマン豆腐」
何百年も生き続けるサンジェルマン公爵の伝説ってあるよね。
赤羽のサンジェルマン公爵とは、豆腐屋だった。
俺が三歳の時、団地に越してきた頃から、夕刻、その豆腐屋は自転車に乗って、プパーッってラッパ鳴らしてた。
ちょっと三億円事件のモンタージュ写真に似た面立ちが印象的。当時、噂話の格好のネタにされていたものだ。
俺が三十になった時には、豆腐屋は代替わりしていたようだ。
いつの頃からか、息子が自転車に乗りラッパを鳴らしている。
俺はずっとそう思っていた。友人らもそうだった。
だが、違っていた。皆、驚いた。
息子ではない。本人。
それは、昔からずっと同じ豆腐屋。
皺も見えず、髪も黒々としている。三億円事件モンタージュのまま。
こんなに変わらない人間がいるのだろうか? 豆腐健康法?
現在、老朽化した赤羽台団地は改築のため、取り壊しが進んでいる。
夕闇にけぶる瓦礫の廃墟に、今も、豆腐屋のラッパが響いているかもしれない。
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