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■ アカバネン・グラフィティ17
July 15, 2007 8:18 PM


「陣太鼓は九連発」


 俺が忠臣蔵にキョウミを持つようになったキッカケは、小学生の頃。
連続ドラマ「大忠臣蔵」。
大石内蔵助に三船敏郎、堀部安兵衛に渡哲也、といった、まさに「大」忠臣蔵。
なぜか、うちの小学校の高学年(4、5、6年)の男子のほとんどが熱狂していた。
今から考えると、妙に年寄り臭い小学校だな、ありゃ、いったい何だったのだろう。
俺もその渦中の一人だったのだが。


まあ、あのくらいの年頃だと、ブームに流されやすいってことかな。
切手や酒蓋のコレクションとか、電車の写真とか、勃発的にブームが起こり、みな、それに巻き込まれ、しかし、短期間で熱が冷めるってことが繰り返されていた。
その一つだろう。
中に、本気でそれを一生の趣味やら、場合によっては求道してプロになってしまう奴も稀にいることもあるが。
それにしても、やはり、小学生に「忠臣蔵」ブームとは異様である。
これも赤羽という場の持つ得体の知れない過激なパワーのなせる業か。
あ、今後、赤羽の「場過力」と呼ぼう。


で、「大忠臣蔵」が一大ブームを巻き起こしていた。
俺の一学年上の卒業生の謝恩会では、「忠臣蔵」の芝居をやるクラスがあったほどだ。
小学生が、「殿中でござる!」、いやはや、不気味でさえあったな。
また、12月、給食の時間に、校内放送で、前日にオンエアされた「大忠臣蔵」の討ち入りの回、まるまる一時間、流していた。
牛乳とマーガリンと食パン食らいながら、男子たちは目を輝かせて聞き入っていたよ、異様だ。


そんなブームの中で、最も熱狂していた男がクラスメートのカズキ君(仮名)だった。
小遣いをためて、大人向けの、何千円もする「赤穂義士辞典」(部数三千部くらいと推察)なんて買っていたくらい。
忠臣蔵について質問すると、ほとんど、明快な解答が返ってくる。
並みの大人や、中学の社会科教師でも太刀打ちできなかったろう。
赤羽に道灌山という丘陵があり、その一部に、墓地が広がっている。
なぜか、カズキ君にそこへ連れて行かれた。
そして、カズキ君は、墓石に彫られた家紋を見ながら、これは大高源吾、あれは武林唯七、それは小野寺十内、不破数右衛門、前原伊助・・・等等、赤穂浪士と同じ家紋を指し示してゆくのだった。
得意げなカズキ君。
しかし、これが、小学生のする遊びかよ!?


カズキ君の「忠臣蔵」熱は中学生になっても冷めなかった。
中三の大切な期末試験の時、俺とカズキ君は同じクラス。
試験の始まる前、俺が何かの拍子に、
「浅野内匠頭はバカ殿だったって説があるんだよな」
って、言ったら、カズキ君、激怒して、
「何だと、もう一回、言ってみろ!」
そう言って、俺を軽く小突いた。
運悪く、俺、バランスの悪い姿勢だったのだろう、足をもつれさせて、後ろに倒れた。
そして、大人しく座っていた、クラス一の秀才・ユージ君(仮名)にぶつかってしまった。
さらに、運悪く、そのユージ君、壁にしこたま額をぶつけ、腫れ上がり、大きな瘤を作る。
顔も血の気が無くなり、目が虚ろで、失神寸前。
慌てて、みんなで保健室に運び込んだよ。


ユージ君、クラス一の秀才と記したけど、それどころか、我が中学始まって以来の天才児と言われていた。
そして、高校受験のための偏差値を決める、大切な期末試験の時。
わが中学の期待を一身に背負う天才児の危機。
俺とカズキ君の「忠臣蔵」を巡る小競り合い(←とても中学生とは思えない)のせいで、ユージ君の一生を壊してしまうかもしれなかった。
何て、リアリティの無い展開なのだろう、現実って。


俺とカズキ君はすんげえ怒られたよ、当然。
まあ、そんなこんな、いろいろあったけど、ユージ君は数日後、別途、期末試験を受け、ちゃんと優秀な成績を挙げた。
ホッ。
さらに、その後、ユージ君は、東大を卒業し、現在、国家公務員として某省庁に勤め、日本を動かしている。


で、俺は今、こうして、これを書いている。
そして、カズキ君。
彼は、高校進学後、全キャン連に入った。
全キャン連とは、キャンディース・ファンクラブのこと。
また、彼は、もてあまる精力のありったけを注ぎ、一晩に、九回ものオナニーの記録を達成した。
あ、これは、いつか当[報告書]にも記したっけ。
カズキ君の忠臣蔵はどこへ行ったのだろう?
殿中でござったのは、カズキ君の股間の電柱だったのか?
討ち入りの夜に響く山鹿流の陣太鼓、一打ち、二打ち、三流れ、
そんなふうにして、チンチンをしごいたのだろうか?


今でも、カズキ君を中心に、当時の仲間だったタツローやジンタンら七人の仲間と共に年に一度、必ず宴会を開いている。
赤穂四十七士ならぬ、赤羽七士、だ。
それとも、ちょっとした赤羽スタンドバイミー、ん、スタンドだったのはカズキ君のチ(←しつこい!)。



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