本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
「アカバネ地獄車」
ドラマ「柔道一直線」は、
なんと、われらの故郷、北区赤羽でロケが行われていたのだ。
主人公・一条直也(桜木健一)が車周作から、地獄車の特訓を受けるのは八幡神社であった。
俺らの通った赤羽台中学のすぐ裏手にある。
その長い長い石段を、一条直也は布団をかぶって転がり下りる。
いわゆる階段落ちと同じ。こりゃ、プロのスタントマンじゃないとキケンだ。
しかし、真似した奴おったかもしれんな。
みんな、熱に浮かされていたからな。
ただでさえ、「柔道一直線」は全国的ブームであったのに、それに加え、地元アカバネでロケしてたのだから、さもありなん。
町全体が異様に興奮してたよ。
だもんだから、俺ら小学五年だったけど、同世代の多くが北区体育館の柔道教室に通い始めた。町内にあったんだ。
すると、驚いたことに、なんと、隣町の滝野川から、
「ケーキ屋ケンちゃん」「おもちゃ屋ケンちゃん」などで一世を風靡した子役、
ケンちゃんこと宮脇康之も通ってきた。
で、また、みんな激しく興奮。
リアリティがぶっ飛んじまって、もう何が何だか解らん狂騒の状態だったな。
マラリアのような熱にとりつかれていたのはいいけど、しょせん、俺らはひ弱な団地っ子に過ぎなかった。
ある時、柔道教室の帰り、不良っぽい奴に声かけられた。
俺やタツローやジンタンなど、みんなで六人。
そのうちの誰かが、返答したのだが、その答え方が気に入らないと、不良に因縁つけられた。
でも、六人の中で誰の発言かは解らない。自白する奴もいない。
すると、不良は、
「一人ずつ、声、出してみろ」
俺らは命令に従い、一人ずつ「あー」って声出したよ。
あ、ちなみに不良は一人。しかも、同い年くらい。
一人vs六人。腑抜けにも程がある。
結局、不良は声の主を確定できず、キレ気味になって、
「仕方ねえ、お前ら、みんな殴る。一人ずつ、前へ出ろ」
俺ら六人、おとなしくビンタくらったよ。
帯でくくった柔道着を背負って、しかも、いっちょまえに下駄まで履いているのにさ。
こんなヘタレな団地っ子の我々ですが、どうか、車周作先生、天国から見守っていてください。
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