本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
「ちょっとちょっと」
じゃ、本日は、スワ兄弟の話、いこう。
スワ兄弟(仮名)は双子。中学時代、俺の一つ上の学年だった。
兄をスワ1、弟の方をスワ2、と呼んでいた。
この双子、仲があんまし良くない。
朝、登校する時、例えば、スワ1が歩いていると、その十メートルくらい後ろをスワ2が歩いていた。
その程度の距離なら、家を出る時間はほぼ同時だろう。けど、絶対に並んで歩こうとしないのだった。
ちょっとその様子をロングショットで眺めると、なかなかハーブな光景であった。
校門では、朝、生活委員が数人立っていて、生徒の服装をチェックし、注意したりしている。
最初、スワ兄弟が双子って知らなくてびっくりした生活委員もいた。
ついさっき、スワ2が校門を通った後、その記憶が鮮明な十秒後くらいに、同じ顔のスワ1が通って、この初歩的なトリックについ仰天したってわけ。
ショックで服装の乱れを注意するのを忘れたりしてた。
たいてい、チェックに引っかかるのは兄、スワ1の方。ちょっと不良がかっていた。
スワ1は怖いけど、スワ2は優しい。ガイラとサンダだ、なんて俺らは噂してた。
俺、中一の時、半年間だけって情け無い陸上部の部員だった。一つ上にスワ2がいて、何度か親切に指導してもらった記憶がある。
確かにサンダの性格だったよ。
俺の中学は、なぜか、バラの栽培が盛んで、
敷地を囲う金網フェンスいっぱいに赤い花が咲いて、通る人の目を楽しませていた。
卒業式には、そのバラの花を一本ずつ、卒業生全員の胸に在校生が挿してあげる。
輝ける前途を祈念して。
そして、在校生が校門までずらーりと並んでアーチを作る。
その中を、胸にバラの花の卒業生たちが通り、母校を後にする。
涙に頬を濡らしながら微笑む女子生徒や、二番目のボタンの無い人気者の男子生徒、
明るい顔、寂しげな顔、どれも清々しい。
美しく感動的な門出。
そうしたシーンをぶち壊すのが、スワ1。
せっかく胸に挿してもらった惜別の赤いバラを、
いつのまにかズボンのチャックに挿して、股間に赤い花を咲かせて、
最後に一人、アーチの下を駆け抜けていったよ。
最後までガイラな人だったな。
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