本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
■ アカバネン・グラフィティ27
July 15, 2007 8:47 PM
「イノキ・ボンバイエ!」
赤羽台団地の商店街に、文房具屋と本屋を兼ねた「B堂(仮名)」という店がある。
ここの店員、アントニオ猪木に良く似ていた。
俺らの間で、「B堂のアントニオ」の呼び名で通じていたほどだ。
わりと長身で体格もよく、明るい性格、元気もいい。
頼りがいのある兄貴分というイメージで、腕っ節も強そうだった。
なかなか人気があって、いつのまにか歌なんか出来て、俺ら口ずさんでいたもんな。
「♪B堂のアントニオいのーき、B堂のハゲオヤジ、ズズズズズス・・・」って。
あ、ハゲオヤジとはB堂の店主、つまり、アントニオの雇い主。
また、歌詞の「ズズズズズズ・・・・」は意味不明。
アントニオと言われていることを本人も知っていたかもしれない。
時折、肩をいからせてファイティングポーズなんかをとってふざけていたから。
意識していたことと推察する。
ある日、本の配達に出かけたアントニオに、災難がふりかかる。
団地の廊下で強盗に襲われたのだ。
売上金の入ったカバンを奪われ、犯人は逃走してしまった。
アントニオ、何してたんだっ!?
気絶してた。
団地の廊下で白目むいて失神しているのを住民に発見されたのである。
強盗が何か棍棒みたいなものでアントニオの額を殴り、気絶させたらしい。
頭に包帯を巻いたアントニオ、涙目で、警察に事情聴取されてたよ。
その光景を見て、俺ら、落胆する。
なーんだ、アントニオ、弱っちいじゃん。あっさり一撃で倒されてさ。
評判と人気はがた落ち。
赤羽の猪木伝説はもろくも崩れ去った。
いや、これだけが猪木伝説だった、とも言えよう、ボンバイエ!
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