本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
「団地のいけにえ」
赤羽台団地には団地サービスという公団派出所があって、
住人の便宜をはかり、
また、規則の厳守を監視していた。
「管理人」というグレイの制服の現場職員が、たしか、数十人いたっけな。
だいたい、中年か初老のオジサン、オバサン。
その中で、俺ら子供たちに恐れられていた管理人のオッサンがいて、
「眉毛ジジイ」と呼ばれていた。
なんで、眉毛ジジイかというと、
眉毛が無かったから。
それだけでも、かなりのインパクトだった。
よく、武者修行で山篭りする際に、くじけて町に戻らないように、眉毛をそる、って話があるよね。
眉毛のない顔は世間から奇異な目で見られるから。
で、その「眉毛ジジイ」は別に修行者でもなく、
あくまでも団地の管理人。
なのに、なぜか眉毛が無い。
しかも、無いだけではなく、眉毛を書いていた。
いや、正確に言うと、
眉毛の刺青をしていたのだ。
怖かったよ。
そして、「眉毛ジジイ」は、大の子供嫌いで、目の敵にしていた。
俺のクラスメートにターチャンって小太りのイタズラ好きの子がいた。
ある日、ターチャン、他人の家のブザー押して、ピンポンダッシュ。
それを、「眉毛ジジイ」に見つかった。
逃げるターチャン。小太りだから、走るの苦手だけど、なんせ、追っ手は「眉毛ジジイ」、
恐怖心に背を押されるようにして、実力以上のスピードで逃走する。
曲り角を三回か四回か折れて、だいたい300メートルくらい全力疾走。
ここまで逃げれば、ふつう、大の大人なら追ってこないよ。
ピンポンダッシュなんて、たわいないガキのイタズラごときで。
ところが、息を切らしてターチャン、振り返ると、「眉毛ジジイ」まだ追ってくる。
その時の恐怖といったら・・・。
刺青眉毛のオッサンが
ナマハゲのような形相でどこまでもどこまでも追ってくるんだ。
ターチャン、ぎゃーぎゃー泣き叫びながら、重い体を引きずるようにして、逃げ続ける・・・。
ホラー映画「悪魔のいけにえ」さながら、
「団地のいけにえ」だね。
どうにか逃げ切ったらしいけど。
それにしても、あのオッサン、どこで、眉毛、彫ってもらったんだろ?
自分でやってたりして。
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