本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
夜、高田馬場にて、食事をしながら、座談会。
来年、ワセダミステリクラブが創立五十周年を迎えるにあたり、
同人誌「フェニックス」記念号が刊行される。
そこに掲載されるコラムのために、様々な歴史的検証をはかるという趣旨。
いやはや、創立時のメンバーの方たちから、現役の学生まで、各世代が集まり、総勢二十人もの大座談会となった。
部室、宴会、合宿、古書店めぐり、同人誌、読書傾向など、話題は多岐に及ぶ。
五十年にわたる変遷史が語られ、さながら、一つの戦後史のような壮大なスケールの様相を呈し、皆、感無量の表情を浮かべるのであった。
多少、アルコールで興奮気味ではあったかもしれないが。
クラブには各世代ごとに奇人が存在したことが判明。
奇人の五十年史でひときわ盛り上がる。
また、正当な奇人(?)とは種族の違う、異端の変人というものが時折、登場していることも大きな話題を呼んだ。
たとえば、
クラブ史の初期に、タカハシという男がいて、とにかくミステリにめっぽう詳しくて、
朝からずーっと喋りっぱなし。その薀蓄の凄さに、皆、聞きほれていたという。
しかし、まもなくして、偽学生だったことが判明し、姿を消してしまった。
バレていなければ、幹事長(クラブの代表)になっていた可能性が高く、
あやうくクラブを乗っ取られるところだったという。
どうにか、そのタカハシ氏の行方を突き止め、五十周年記念パーティーに招待し、感動の再会を果たせないかと、現在、検討中である。
俺の世代でも異端の変人がいた。
当時、十五号館校舎の地階ラウンジはさまざまなサークルがたまり場に使用していた。
わがワセダミステリもその一画に陣を構えている。
ある日、上だけ柔道着を着て帯をしめ、ジーパンをはいている、どう見てもヤバそうな青年がラウンジにやってきた。
そして、うちの陣地のソファに腰掛け、勝手に、他人の紙コップのジュースを飲んだりしている。
「俺、ハマグチっていいます」
と一応、名乗りをあげた。
ハマグチ? そんなクラブ員いたっけ? 誰? というよりも、単なるアブナい野郎だ。
ハマグチ君、時折、立ち上がると、いきなりジャンプして、近くのコンクリート柱に回し蹴りをくらわしたりする。
こりゃ、直球ど真ん中のキチGUYだわな。
いくらうちがミステリクラブだからって、そこまでの守備範囲はちょいと無理だ。
確か、ハマグチくんは三十分くらい居座っていたと記憶する。
そして、去り際に、
「俺、来年、早稲田に入学して、このクラブに入りますから」
と恐るべき予告を残して、遠ざかって行ったのだった。
翌年の春、クラブ員たちは戦々恐々としながら、最悪の事態に備えて一応の覚悟を決めていたが、
ハマグチくんは二度と姿を現すことはなかった。
現在、上記のタカハシ氏と同様、行方を追及中である。
うまくいけば、ずいぶんと賑やかな記念パーティーになるだろう。楽しみだなあ。
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