本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
名店ともあろう老舗が、よくも、まあ、
ひでぇ取り違えをやらかしてくれたもんだっ!
うちから依頼したお中元のことである。
この店、誰もが知っている都内のフルーツ専門の一流店。
うちのような下層階級は滅多に利用せんわい。
それなりの事情や相手の場合に限る。
人生の恩師とも言うべきAさん、
なんせ、番犬ハチ君をうちに授けてくださったのだから。
この方、日本犬の保存会に所属し、多くの柴犬たちを育てている。
さながら、ご自宅は、柴犬の牧場。
俺らは、九年前に、この牧場から、生後三ヶ月のハチ君を授かったのだ。
商売でやっているわけではないので、文字通り、いただいたのである。
大切に育てます、と俺らは命がけで誓った。
以後も、時々、健康やしつけのことで、
相談に乗っていただき、適切なアドバイスを賜っている。
ホント、恩師なのである。
だから、お中元に、件の名店に依頼し、
フルーツをお贈りした。
ご挨拶と御礼をしたためたカードを入れてもらって。
また、家内が気を利かし、俺の母親にも同様のお中元を手配する習慣になっている。
今年は、
先日、記したように岡山の叔父貴(義足の板前←なんかカッコいい)が他界したので、
愁傷の言葉を記したカードを同封するよう、そのフルーツ店に渡した。
と、ところが、名店さんはよぉ、
その二種のカードを、入れ間違えやがったんだ。
うちが、何度も、しつこく、くれぐれも過ちのないようにと念を押したのに。
カードの封筒にも、相手先を明記しておいたのに。
カードが逆になっちまった。
恩師Aさんのところに、
俺の死んだ叔父貴のお悔やみ状。
母親のところに、
ハチ君に関する感謝状。
母親から電話があって、
「わたしゃ、ハチ君を育てた覚えはないけど」
そりゃ、そうだ。
もし、母が育てた息子がハチ君なら、
恩師Aさんの犬牧場で育ったのは、俺の方ってことになる。
実は俺、犬だったのか。
ソフトバンク犬の逆バージョンか。
落語の「元犬」か。
いや、んなことよりも、恩師Aさんへ行ってしまったカードが問題だよ。
お悔やみ状だもの。
もしも、Aさんの家族や親戚に、折りしも、入院されている方がいらしたりしたら、
もう、非礼の極みである。
ぞっとしたよ。
電話で、丁寧に丁寧にお詫び申し上げた。
Aさん、お優しい方なので、むしろ、フルーツ店の過ちで災難でしたねと同情してくださった。
しかも、ご自分の農園で栽培しているブルーベリーをお贈りしましたので召し上がってください、とおっしゃる。
いやはや、こちらは下げた頭が、そのまま地中に潜り、油田でも掘り当てそうだったよ。
さてと、
次のステップ。
この災難の元凶たる、一流の名店の老舗のフルーツ屋に
激しく抗議せんとな。
ホント、洒落じゃすまんことをやらかしてくれんだからな。
お前らの脳味噌、キウィ、パパイア、マンゴだねー、なんだからよぉ。
果たして、いかなる、結実となるか、
乞うご期待。
晩飯。麻婆ナス。生カブの刺身・三杯酢で。カブの葉のおひたし。
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