本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
本屋さんに行き、迷わず、
女性誌「an・an」のSEX特集号を挿入いや購入した。
ふだん、そんなもん買わない。
初めてである。
ただ、特別付録がすごくすごく欲しかったのである。
それは、CD「豊川悦司が朗読する官能小説」。
二十分くらいの短編だった。
いやはや、これがなかなかスモーキーな設定で、
つい頬が緩んでしまう。
登場人物は二人だけ。
二十代半ばの女。銀座で小さな洒落た文具店を経営している。
もう一人は、四十ちょっと過ぎの男。パナマ帽をかぶって、飄然と女の店にあらわれ、ブルーの鉛筆を買う。これが出逢い。
そして、彼の職業は・・・「盆栽」のアーティストだった。
で、セオリー通り、早いとこ官能シーンへと展開されるのだが、
この男のキャラがとってもヘブンリー!
いちいち、ボディや体位などを、「盆栽」に見立てるのである。
見立てセックス、だ。
それも、いちいち言葉にして、また、表現とは裏腹に、口調がすごく丁寧で紳士的。
しかも、最初にちゃんと予告する。
「これから、あなたを花木として扱い、好きなようにいじらせていただきます」
「盆栽でいちばん大切なものは何かご存知ですか。それは素材です」
男は、女の体のあっちこっちを眺め、いじりながら、
「ああ、いやらしい形だ。このひきしまった足はクロマツのようにねじれています。
乳首はベニシタの赤い実を髣髴させる。
さあ、これから私のモノを入れるこの場所、まるで、キシゴケですね」
(これを、豊川悦司が神妙に朗読している)
また、男はいろいろと道具を使う。盆栽いじりのように。
場所はアトリエの作業台の上だし。
女に目隠しをさせ、両手首を「針金」で縛る。
そして、パンティーの薄布の上から、何か棒状のものでアソコをいじる。
棒は、ブルーの鉛筆だった。さっき、女の文具店で買ったものである。
「ああ、いい景色だ。盆栽は結局、景色を作ることなのです」
行為を、いったん中断して、男のマンションへと移る。
じらしプレイだね。
そして、いきなり、玄関で立ちバック。
しかも、やがて、
「アナルにぶちこまれていますね。もっと、あなたのいやらしいお尻を突き出してください」
BGMにシューベルトの幻想ソナタを流し、マンションは月島だし、男はちゃんとおしゃれな演出を心掛けている。
その状況でなおかつ、
「アナル、いいでしょ」
「・・・ああ、い、いいです・・・」
「それでは、アナル、気持ちいい、と言ってください」
「・・・アナル・・・太い・・・ああ・・・」
「アナル、良く締まりますね。あなたのアナルはいいアナルです」
なんどもしつこく執拗に、アナルという言葉を繰り返す男。
(これを、豊川悦司が神妙に朗読している)
しかし、やはり「an・an」の付録ということを意識してか、
朝食をベッドで食べたり、
料理は、カマスのアクアパッツォとかパルチーノのリゾットとか、
(よく知らないけど)お洒落なテイストが一応、効かされている。
それでいながら、朝食の最中に、
オリーブオイルを乳首や股間にかけて、舐めるシーンが突発するから油断できないよ。
で、この二人の関係は半年くらい続くけど、唐突に、男はベネチアへと旅立ってしまう。
と、まあ、こんな内容のCDだけど、
何はともあれ、豊川悦司なのである。
俺、東宝映画に勤務していた頃、
「八つ墓村」に、アシスタントプロデューサーとして関わった。
そう、金田一耕助を演じたのは、豊川悦司。
だから、
豊川悦司といえば、俺が真っ先に連想するのは金田一なのだ。
そのせいで、
金田一がアナルとか連呼しているふうに聞こえるのだ。
しかも、金田一っぽい丁寧な口調だし、
「見立て」が出てくるし、
パナマ帽はあのオカマ帽に重なるし、
そして、風のように現れ、去ってゆく存在。
まったくもって、金田一耕助の官能小説に思えて、
横溝賞作家で岡山出身の俺は、狂ったように笑いが止まらなかったのであった。
夜は、「戎」北口店で一杯。時折、思い出し笑い。
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