本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
仕事の合間に、こないだ刊行されたばかりの
なぎら健壱・著「酒(しゅ)にまじわれば」(文藝春秋/1381円+税)
を拾い読みしている。
朝日新聞の連載をまとめたもの。
タイトルの通り、酒にまつわるエッセイ集で、
これがもう面白くて仕方ない。
殊に共感を覚えたエピソード、
それは、闇鍋のハナシ。
なぎら氏とその仲間は、
バナナ、キューリのおしんこ、ナマコなどを
入れたらしい。
正直、俺、うらやましい、と思った。
なぜなら、俺も闇鍋をやったことがある。
ワセダミステリクラブの現役時代、夏季合宿で。
いくつかの班に、分かれて、それぞれ飯を作るのだが、
わが班、その名も「マッドパンパース」(師・玉井次郎の命名による)では、
初日から、いきなり、闇鍋。
一応、大鍋に、ビーフ系のスープストックを入れて、
最低限の味だけは確保しておく。
これで、飯盒のメシだけは食える、いわばライフセーバーだ。
しかし、展望は甘かった。
とにかく、食べられるものなら何でも入れて良し、というルールのもと、
班員たちはこれぞというものを勝手に放り込み、
火が通るのを待つ。
マグナム級に強烈だったのは、二つ。
まず、マシュマロ。
麩のように、スープをたっぷり吸って、大きく膨らむ。
最初はスープ味が口に広がり、おっ美味しいと油断させておいて、
いきなり、とんでもない甘さが襲い掛かる。
砂糖水をガブ飲みしたように、
それがビーフ味と融合し、もう何が何だか解らない、口ん中がパニック。
舌が壊れて、唾液以外の体液を分泌しているよ、
そんな戦慄に襲われるのだ。
お試しあれ。
もう一つが、缶詰のアスパラガス。
食感がくたーっとしてだらしないけど、意外と味はいける。
と、思って油断してたら、
襲い掛かるのは味覚ではなく、嗅覚に、だ。
ビーフとアスパラ(缶詰に限る)が何やら化学反応を起こして、
口ん中でサリンが発生しているように苦しさ。
やがて、鍋が煮詰まるにつれて、
闇鍋そのものがサリン状態となる。もはや、事件である。
あ、ちなみに、
我々の合宿場所は、富士五湖のひとつ、西湖のほとり、
当時の住所でいえば、
上九一色村であった。
晩飯。
故あって、翻訳家で、軍事評論家で、軍人の、村上和久氏から毛蟹を御恵贈いただく。
誠にありがとうございます。
身がみっしりと詰まっていて、もう美味いこと美味いこと。ご馳走様でした。
重ねて心より御礼申し上げます。敬礼!
あ、そうえば、村上氏も上記の闇鍋の戦友であった。
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