本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
これぞ、強迫神経症!
という、あまりにビビッドな症状の人を目撃してしまった。
強迫神経症って、「名探偵モンク」が患っているアレね、
やたらと潔癖症だったり、
何度も確認せずにはいられなかったり、
とにかく偏執的なこだわりを、自意識では止められなくて苦しむ病。
夕刻の六時頃だったかな、自転車で買い物に出掛けたら、
前方に件のモンク君(名探偵かどうかは不明)を発見。
二十代半ばのラフな格好の男性。
とにかく、歩き方が尋常ではない。
路面に敷かれたタイルを、
自分なりの何か法則(たとえば、二つおきにとか、ブルーのタイルのみとか)に従って踏んで、歩いている。
間違えると、数歩戻って、やり直す。
これだから、なかなか前に進めない。
ほら、「名探偵モンク」の主題歌タイトルバックで、ガードレールの杭にいちいちタッチして歩いているシーンがあるけど、あれと同系列の症状だろう。
もっと似ているのが、映画「恋愛小説家」のワンシーン。
主人公のジャック・ニコルソンが、いちいち路面のタイルの隙間を踏んで歩いていた。
でも、それらより、目前の若者の動きははるかに異様だ。重症である。
近付くと、何やら、数字をブツブツ呟いている。
脇を通る時、その顔をチラ見したけど、ゲッソリとやつれている。
悲壮であった。
以前、こんなにはひどくないし、症状のタイプも違うけど、
三度ほど、俺も強迫神経症に悩まされ、心療内科で治療してもらった経験がある。
その時、俺って、とにかく調べるのが好きだから、
やたらと資料を読み漁り、医師にもズバズバいろんな質問をして、
かなり詳しくなり、気付いたら趣味として楽しんでいたよ。
そういう治り方もあるのだ。
で、多くの文献で症例を知り、
すげえなぁなんてカンシン(?)し、
日頃から激しく興味を抱いていたわけなもんだから、
これほど典型的な王道の病状をライブで間近で見ること出来て、
興奮すら覚えていたよ。
この人、この調子で歩いていると、帰宅するのにどれだけ時間がかかるだろう。
あんまり悲痛な表情だったので、
いい病院を紹介してあげようか、って一瞬、思ったけど、
今、話しかけると、
タイルを踏む法則とリズムの邪魔をして、また、やり直しを強いることになるので、
やめた。
それに、この道、俺が薦めたい病院の方向なので、
もしかしたら、通院の途中なのかもしれんし。
そう願いつつ、後ろ髪ひかれる思いのまま、俺は夕陽に向かって走り去ったよ。
モンク君、お大事に、いや、ホントに。
夜は例によって「戎」北口店で一杯。
店の前の通りで、数時間前、上記を目撃したんだよな。
モンク君、無事、病院に辿り着いたかなぁ、とコップ酒をあおる。
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