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■ 11月17日(月)・2008
November 17, 2008 12:07 PM


 いやはや、テアトル新宿で、凄いことやってるの発見。
その名も、


「若山富三郎×勝新太郎の軌跡」


謳い文句も、シビれるぜっ。
「孤高の兄弟、至極の27作品」


日替わりどころか、回替わりで、
兄の、弟の、主演作品が上映されるという。
早速、スケジュールをチェック。
子連れ狼シリーズや、座頭市シリーズ、垂涎の極上品の数々。


しかし、まさか、カツシンのアレの上映は無いだろうなぁ。
と、タカをくくってたら、
うわーっ、や、やるよっ!
いきなり、後頭部から鼻の穴へ、仕込み杖をぶっ刺された驚愕と歓喜!
そう、アレだ。


「顔役」


勝新太郎・製作・脚本・監督・主演の「顔役」


おお、神の降臨だ!
カツシン、いや、カツ神の三本の監督作品(他は「新座頭市物語・折れた杖」「座頭市」)の中で、
唯一、ソフト化されてない。
まさか、劇場で観賞、いや、拝観できるなんて。


い、いつ、やるんだよっ!
なにっ、今日! 午後2時からっ!
時計見て・・・、うおぉぉっ、間に合う!
俺は何もかもほったらかして、家を飛び出たね。そのまま、新宿まで走る、
のをかろうじて抑え、自転車とJRで突撃したよ。


客席は立ち見の超満員、外には長蛇の列、ダフ屋と、綿菓子や金魚すくいの屋台、
ってことはなく、
三十人ばかりの入りで、ゆったりと座れる。


しかし、月曜日、午後2時、テアトル新宿にいるなんて、
まぎれもなく、この三十人は、一人残らず
カツシン原理主義者(@根本敬)である。
お互い、目付きや、空気感が、それを察しあっている。


また、この中の、10人くらいは、
俺と同じく、心にトラビス(「タクシードライバー」)が住んでるはずだ(三人くらいは陰毛がモヒカン、あ、俺は気持ち的に)。
いいなぁ、
魂にカツシン、心にトラビス、
最高の客筋だぜっ。
一緒に飲んだら、確実に、来た人数と、帰る人数、違ってるね。


で、ついに拝観させていただきましたよ、
「顔役」。


もう、すべてのカットが、カツ神のソウルに満ちている。
奇観にして、艶麗で、猥雑なる映像美の奔流。
泥絵具を塗りたくったような、陶酔と痛感の、無駄絵巻。
ここには無駄な無駄なぞいっさい無いのだ。
もう、瞬きすることさえ大罪を感じる。
(それにしても、太地喜和子のエロさは尋常じゃないな。「しとやかな獣」の若尾文子とどっちだろう、激しく悩む ←勝手に悩んでろっ)。


ドラマはアウトロー刑事もの。
対立する二つの極道組織の抗争劇の血煙の中を、
法規放棄の捜査が発火させるバイオレンスアクション。
うん、そうだ、
神たるカツシンが刑事を演じるわけだから、
これは、いわば、


神コップ


そう、地上の神話なのである。
僭越ながら、俺が銘打つなら、
「神コップの黄表紙ノワール」
って感じだろう。


時として、邦洋問わず、さまざまな映画において、
神が降りる瞬間がある。
しかし、この「顔役」という映画は、「神コップ」なのだから、
ずーっと、降臨しっぱなし。
われわれと同じ地上に神はおわしてくれる。ああ、ありがたや、ハレルヤ。


そして、ラスト、神がさらなる降臨を遂げるのは、
地上の果て、それも、ベクトルは下方を指し示す。
神は地獄に降臨するのだ。
そして、われわれを力強く、やさしく、たおやかに、奈落へと導いてくれる。
このカタルシスとは、
カツ神という、チンチンの付いた聖母に、抱擁される安らぎなのだろう。
ラストシーン、奈落の蓋を踏みしめる神の足音が響く。
映像と言う名の洗礼の儀に、涙を禁じえないのだった。


2008年、11月17日、月曜日
聖なるこの日を、俺は一生忘れない。
0811171.jpg




 晩飯。鶏のつくね鍋。



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