本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
この稼業をやってて、困ることの一つ、
それは、執筆途中の段階で、
出来たところまで見せてほしい、と求められること。
困るのだ。
大きな理由が二つある。
一つ、
俺は冒頭から順に書いていく方法をとっていない。
書きやすい箇所、書きたい箇所を、
断片的に、あっちゃこっちゃ、ちょろっと書いて、
それを溜めていって、だんだんつないでゆき、
ようやく次第に全体が出来上がっていく、
そういう書き方なのだ。
映画の撮影・編集と同じ。やはり、元映画屋だったからかもしれない。
このやり方がもっともスムーズで早い。
だもんだから、
出来たところまで見せてとリクエストされても、
それは、ただの散漫とした文章が散らばってるだけ、
てにをは、も無茶苦茶。
キチガイの綴った詩、としか見えないのだ。
だから、困る。
もう一つ、困る理由。
それは、俺の癖。
ストーリー本体とはまったく関係ない文言がいきなり記されていること。
それも、
ジャム出しマンコ
とか、
チンコ5本のグローブ
とか、
落盤ウンコ炭鉱
とか、
タマ頬張り鼻からはみ出る
とか、
そんなあんながいきなり出てくる。
これ、執筆中に、自分に気合を入れるために衝動的に書いてしまうのだ。
瞬発的な写経のようなもの。
そして、この系列の文言の類でないと腹に力が入らない。
がっちしと思い描いて、奮起する。
だって、
例えば、ヒヤシンスとか、アネモネとか、スイートピーとか、
ふにゃった言葉じゃ肝ッ玉に届かぬでしょが。
で、だもんだから、途中で見せてほしいと言われると、
困るのだ。
上記のごとき気合文言は、
未完成の原稿だと、しっかり残っている。
出来たところまで見せてと言われたら、
慌てて、消さなきゃならんのよ。
だって、他人様に、
ジャム出しマンコとか
チンコ5本のグローブとか、
見せられないでしょ。
しかも、文中、どこに紛れ込んでるか覚えてないので、
見つけるのが、重労働。
さながら、ウォーリーを探せ。
そんなわけで困るのである。
そして、今、或る原稿で、チンコやマンコを探してる。
疲労困憊。
気分も荒れてる。
ああ、明日かあさっての夜、
気晴らしに、いつもの「戎(えびす)」北口店で飲んでるだろう。
カウンターに俺の姿を見かけても、
絶対に目を合わせないように。警告。
晩飯。鶏の水炊き。雑炊がすっごく美味し。
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