本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
はい、予告通り、
一昨日のエピソードのつづきです。
十年くらい前に、
親友が他界した。持病の内臓疾患が原因。まだ四十代前半だった。
俺の兄貴分みたいな人で、まあ、仮に名を、
ジンさん、としとこう。
で、葬式やら何やらいろいろ終わって、
しばらくしてから、俺ら親しかった仲間は、
ジンさんの遺品をいただいた。
ミステリ本や、モンスター系フィギュア、ホラービデオ、カード、
など、マニアックで貴重なグッズ。
よく集めたなぁ、ってカンシンするほどのディープな品揃え。
でも、そうだよな、
ジンさん、自分の疾患を分かっていて、寿命を悟っていた。
それで、生き急ぐように、これらの収集に奔走していたんだ。
それから、また、ちょっとしばらくして、
ジンさんの妹さんから、こんな話をいただいた。
ジンさんの部屋を整理していたら、
押入れと天井裏から、
大量のAD(アダルトビデオ)を見つけた。
それで、これらも、折角のコレクションなので、
形見として、どなたか受け取ってもらえないか、と。
俺、躊躇なく手を挙げて、快く引き受けたぜ。よっ、男だね、いろんな意味で。
で、数日後、宅急便の段ボール箱が届いた。
それも二箱。
あれっ? たしか、ビデオは20本のはず。
だから、一箱で充分なのに。
いや、それは、俺の勘違いであった。
快く手をあげた時、かなり酔っていて、
聞き違えたのだ。
本当は、
ビデオ20本ではなく、
ビデオ20箱分だったのだ。
1箱でも、数十本、入ってるよ。
ジンさん、そんなに集めて、
やっぱし、人生の残り道、知ってた。
で、その荷とともに
妹さんからのお手紙が添えられていて、
「とりあえず2箱ぶん送ります。残りは後日」。
というと、あと、18箱やってくる!
こ、これは、大変だっ。
広い家ならともかく、うちはちっちゃい。
俺の狭い部屋が、AVに占拠される。AVルームだ、よく解らんぞ。
家人や来客が大きく口を開け、そのまんま顎を外すだろう。
慌てて、俺、ジンさんの妹さんに詫びの連絡を入れ、
また、仲間にも伝え、
みんなで、残る18箱を、
まさしく形見分けさせていただくことにした。
で、すべからくAVはみんなの手にわたり、
安住の地に落ち着いたわけである。
一段落したところで、
俺は、いただいたAVを観賞する。
そう、ちゃんと観賞してこそ、
ジンさんの弔いとなるのだ(←説得、説得、自分を、みんなを、説得)。
で、御冥福を祈りながら、数十本、観賞させていただいた。
しかし、ジンさんと俺とでは、趣味が違うことが解った。
単純に、好みの違いである。
俺は、どういうのが好きか、って言うと、
って、何もここで、んなこと自白させられる謂れはないわな。
なので、いただいたAV、おそらく再見しないだろう、と判断。
上述のように、俺の仕事部屋は、既にあれこれと資料まみれで、スペースが苦しい。
けど、ジンさんのAV、邪険にできない。
で、考えたよ。そうだ、有効利用しようと。
2本だけ残して、
他のテープは、映画の録画用として再利用させていただいた。
現在では、
数々の名画のライブラリーと化身している。
そいでね、
たとえば、「カサブランカ」「禁じられた遊び」とか、
「雨に唄えば」「スティング」「シェーン」などを見て、
胸をジーンとさせて、エンドマークを迎えると、
いきなり、
「アハン、ウフン、アヘアヘ」って残っていたAV映像が襲ってくる。
その時、
生前のジンさんの人懐っこい笑顔が浮かんでくるのである。
どうだい、泣ける話だろ、さながら落語の人情噺だね。←どこがだっ!?
で、一昨日の、立川談志のエピソードにつながるってわけさね。
晩飯。ナポリタンを作ってもらう。
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