本格ミステリの傾き者、推理作家 [霞流一 探偵小説事務所]
現在、発売中の月刊誌
「ミステリマガジン」(早川書房)
に、
拙作「犬が好きだった女」が掲載されている。
これは、
近日(4月1日頃)刊行される長編「ロング・ドッグ・バイ」(理論社)
の番外編というか、前日譚のような物語。
同じ探偵犬・アローが活躍する。
ちゃんと完結したストーリーなので、予備知識なんか一切不要、
サクッと読めるショートショート、ご興味のある方は手にとってみてください。
で、さらに、興味を持たれた方は、
「ロング・ドッグ・バイ」の方も、よろしくね。
今月の「ミステリマガジン」はレイモンド・チャンドラー特集。
こんど、名作「さらば愛しき女よ」が、
村上春樹さんによる新訳で、
「さよなら、愛しい人」と改題されて早川書房より刊行される。
実は、俺、こう見えても、ちょっとしたチャンドラー・マニアなのである。
十代の頃、「長いお別れ」を読んで、その奥深さまでは解りもしないのに、
単に、あの独特のムードに酔いしれて、
既刊作品を読み尽くし、
「さよならを言うのはわずかのあいだ死ぬことだ」
とか、
「ギムレットには早すぎる」
とか、
作中の名セリフを唐突に口にしていた・・・・・・
胸に名札つけた中学生の分際でさ、
そりゃ、周囲から無気味がられたものである。友だち、減ったし。
もっとも熱してた頃は、
ポケミス版「長いお別れ」の冒頭2ページを暗誦できたほどである。
アイダホあたりのインチキ牧師が聖書の一節を意味も解らず引用するように、
唐突に口にしてみて、
やはり、友だちは去っていったさ。クラス替えを提案した奴もいたっけ。
ハードボイルドとは孤独なものである。
その反動からか、
二十代、三十代の頃は、
なんとなく、微妙なウェットさが鼻について、チャンドラーを敬遠し、
ひたすらドライでラディカルなミステリばかりを偏愛していた。
しかし、四十代半ばあたりから、
それ相応に人生や世情の辛酸をなめてきた分、
ようやく少しずつ、
チャンドラー作品の本当の味わいが沁みてくるようになり、
ああ、これはこういう意味だったのかぁ、
なんて初めて読むような楽しみに浸っている昨今なのである。
で、前述の拙作「犬が好きだった女」は、
チャンドラーの「さよなら、愛しい人」(「さらば愛しき女よ」)
の原型のひとつである短編「犬が好きだった男」
から、タイトルを拝借している。
また、ストーリーも、「さよなら、愛しい人」へのオマージュとさせていただいた。
二十代、三十代の頃の反省と謝罪を含めて。
そして、もちろん、何よりも、
敬意と感謝を込めて。
イラストは、「ロング・ドッグ・バイ」と同じく、坂崎千春さん(感謝!)。
晩飯。野菜たっぷりの田舎汁。
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